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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)2741号 判決 1995年6月14日

名古屋市中川区宮脇町一丁目一〇九番地

原告

ファンシーツダ株式会社

右代表者代表取締役

津田荘太郎

右訴訟代理人弁護士

伊藤典男

伊藤倫文

右輔佐人弁理士

幸田全弘

名古屋市西区那古野二丁目一八番四号

被告

株式会社オムニツダ

右代表者代表取締役

津田英二

名古屋市港区正徳町四丁目九番地

被告

青山光亮

愛知県日進市浅田町平子四番地の七四一

被告

津田英二

愛知県知多郡阿久比町大字白沢字表山五―六

被告

池田美典

三重県桑名市大山田四丁目一五番地の九

被告

村井進

名古屋市中村区中島町三丁目六番地

被告

安井孝安

被告ら訴訟代理人弁護士

高須宏夫

水野聡

奥村哲司

被告ら輔佐人弁理士

松浦喜多男

主文

一  被告株式会社オムニツダ、同青山光亮及び同津田英二は、各自、原告に対し、金一八五万五五五〇円及びこれに対する別紙遅延損害金起算日目録記載の日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  被告池田美典及び同安井孝安は、各自、原告に対し、金一八五万五五五〇円及びこれに対する別紙遅延損害金起算日目録記載の日から支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  被告村井進に生じた訴訟費用については全部原告の負担とし、その余の被告に生じた訴訟費用については、そのうち各一〇〇分の一を当該被告の負担とし、その余を原告の負担とし、原告に生じた訴訟費用については、その一〇〇分の一を被告村井進以外の被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決の第一項、第二項及び第四項は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二億円及び内金一一六四万四〇〇〇円に対する別紙遅延損害金起算日目録記載の日から、内一億八八三五万六〇〇〇円に対する平成六年一一月二三日から、それぞれ支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  原告は、木材の輸入及び販売並びにロールベニヤ及びラッピング商品の販売を主な業務とする会社である。ファンシープロダクツ株式会社(以下「ファンシープロダクツ」という。)は、ロールベニヤ及びラッピング商品の製造を業としている。

(二)  被告津田英二(以下「被告英二」という。)は、昭和六〇年七月八日任期満了により退任するまで原告の取締役であった者であるが、同年一〇月一六日、被告株式会社オムニツダ(以下「被告会社」という。)を設立して、その代表取締役となった。

(三)  被告池田美典(以下「被告池田」という。)、被告村井進(以下「被告村井」という。)、被告安井孝安(以下「被告安井」という。)は、いずれも原告の従業員であったが、昭和六一年四月ころ原告を退社して、被告会社の従業員となった。

2  原告は、昭和五八年一二月二二日、ドイツに本社を置く法人であるフィルマ・ハー・ハイツ・フルニール・カンテンベルク・ゲーエムベーハー(以下「ハイツ社」という。)との間で、ロールベニヤの技術援助及び情報交換に関する契約を締結し、ハイツ社から、ロールベニヤの製造方法等について技術援助及び情報提供を受けた。

そして、それをもとに原告及びファンシープロダクツ(原告の子会社であり原告の実質的な製造部門である。)において研究をした結果、原告は、ロールベニヤの製造方法についてノウハウを有するに至り、ファンシープロダクツにおいて、そのノウハウを使用してロールベニヤを製造し、原告がそれを販売している。

3  ファンシープロダクツは、ロールベニヤを、次のような方法によって製造している。

(一) フィンガージョイント工程

天然木を厚さ〇・三ないし〇・五ミリメートル程度、幅八五ミリメートル以上に加工したツキ板の両端に多数並列の三角歯形のフィンガー加工を施し、その各加工部を、次々に噛合い状に突き合せて、ツキ板を長尺とし、各突合せ部表面に、不織布テープを接着剤によって貼って補強する。

この工程には、フィンガージョイントマシンと言われる機械を用いる。ファンシープロダクツにおいて使用しているフィンガージョイントマシンは、フーザー社が製造しクーパー社が販売しているものである。

(二) ラミネート工程

右(一)の工程によって得られた長尺状のツキ板の裏面に、接着剤を塗布し、その接着剤に不織布などの裏貼り繊維質シート(このシートは「フリース」と言われている。以下「フリース」という。)を重ね、加圧接合処理した後、渦状に巻き取る。

この工程には、ラミネートマシンと言われる機械を用いる。ファンシープロダクツにおいて使用しているラミネートマシンは、デュスポール社製である。

(三) サンディング工程

長尺状のツキ板を右(二)のとおり巻き取る前又は巻き取った後に、表面をサンダーによって平滑に研削して、厚さを調整するとともに、右(一)の補強に用いた不織布テープを除去する。

この工程には、サンディングマシンと言われる機械を用いる。ファンシープロダクツにおいて使用しているサンディングマシンは、クールマイヤー社製である。

4  右製造方法において原告が有するノウハウは、右(一)ないし(三)の各社の機械の使用(機械の選択・配列等の生産ラインの設定を含む。)のほか、次のとおりである。

(一) フィンガージョイント工程

<1> 補強に用いる不織布テープをツキ板の表面に貼ること

他社のものは、補強に用いる不織布テープをツキ板の裏面に貼っているが、裏面に貼ると、ラミネート工程において、接着剤が突合せ部に十分に塗布されないため、剥離の原因となったり、サンダーをかけるとき、その部分の厚さが薄くなるため、品質が悪くなる。

<2> 補強に用いる不織布テープを貼る際のプレスの圧力の調整を次のようにすること

エアー圧 一平方センチメートル当たり三ないし六キログラム

熱板の温度 約二二〇度

圧力タイム 一ないし二秒

樹木別の接着強度に配慮する(接着性の良い樹木としては、ナラ、タモがあり、接着性の悪い樹木としては、シナ、チークがある。)。

<3> フィンガージョイントマシンの送りスピードを投入するツキ板の長さによって調節する方法

<4> ブックマッチ方式のジョイント

各突合せ部における木目を揃えるため、三角歯形に加工したツキ板の下部と下部、上部と上部を各突合せ部で合わせて、噛み合わせる。これをブックマッチ方式のジョイントと言い、これを本件のような長尺状のロールベニヤに採用したのは、原告が初めてである。

<5> 突合せ部分が有すべき最低限度の品質とそれを保持する方法

ア ピンホールの大きさの限度

イ 突合せ部分のずれの限度とその調整方法

ウ ブックマッチ方式によって木目を揃える方法

<6> 電球の光線透過を利用した突合せ部分の検査方法

(二) ラミネート工程

<1> 接着剤の選定方法

原告は、調査検討の結果、接着剤として、カネボウ・エヌ・エスシー一四二―二一五〇及びエイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドのエバーグリップ二四〇を使用していた。

<2> 接着剤を配合する際に固形分を四〇ないし五〇パーセント配合すること

<3> 接着剤の塗布量は一平方メートル当たり八〇ないし九〇グラムとすること及び樹木の種類により接着剤の塗布量を調整する方法

<4> フリースを次の各点を考慮して選定する方法

ア 繊維と化学物質の割合

イ 縦横の引っ張り強度の均質性

ウ ファイバーノットの有無

エ 一平方メートル当たりの重量

オ 接着剤の含浸度合い

<5> 加圧接合処理の方法

ア 熱ローラーの温度を約八〇度とすること

イ 熱ローラーの圧力の調整方法

ウ 加圧接合処理の速さを毎分一七メートルとし、接着剤の水分の飛ばす方法

<6> 加圧接合処理時における不良品発生防止の方法

ア ツキ板の蛇行を防止する方法

イ 熱ローラーに接着剤が付着しないようにする方法

ウ ツキ板とフリースの間に異物が混入しないようにする方法

エ フリースのしわが生じないようにする方法

<7> 予めフリースに接着剤を含浸させることなく、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼ること

ハイツ社では、予めフリースに接着剤を含浸させる方法をとっているが、原告は、予めフリースに接着剤を含浸させることなく、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼る方法をとっている。

(三) サンディング工程

<1> サンドペーパーの種類の選定(三〇番、一〇〇番、一二〇番、一八〇番又は二四〇番を使用)

<2> サンドペーパーによる研削量の調整

<3> サンディングマシンの速さを毎分約一三メートルすること及び厚さ〇・五ミリメートルの長尺状のツキ板をサンディングマシンに連続的に投入する方法

<4> サンディング工程における不良品発生防止の方法

ア 最終仕上面の粗度

イ 蛍光燈光線透過による検査及び欠点限定の設定による検査

ウ チャーターマークの発生防止

<5> フィンガージョイント工程において補強に用いた不織布テープをサンディング工程における研削で除去する方法

5  右4の原告が有するノウハウ(以下「本件ノウハウ」という。)は、新規性があり、一般人が入手することができないものである上、具体性があり、商業上利用することができるものである。

そして、原告は、これを営業上の秘密として管理していた。

6(一)  被告英二は、原告の取締役として、取締役在任中はもとより、退任後も、原告の営業秘密を漏洩しない旨の義務を負っていた。

(二)  原告と被告池田、被告村井及び被告安井との間の各雇用契約には、これらの被告は、原告に在職中はもとより、退職後も、原告の秘密を漏洩しない旨の約定があった。また、原告の就業規則には、従業員は、業務上の秘密を漏らしてはならない旨の規定がある。したがって、これらの被告は、原告に対して、原告に在職中はもとより、退職後も、原告の営業秘密を漏洩しない旨の義務を負っていた。

(三)  ところが、被告英二、被告池田、被告村井及び被告安井は、右の義務に違反して、本件ノウハウを、被告青山家具製作所こと青山光亮(以下「被告青山」という。)に提供して、平成元年六月ころから、ロールベニヤの製造を行わせている。

(四)  したがって、被告英二、被告池田、被告村井及び被告安井は、債務不履行による損害賠償として、被告青山が本件ノウハウを利用してロールベニヤの製造をしたことによって原告が被った損害を賠償する責任がある。

7(一)  また、被告英二、被告池田、被告村井及び被告安井が、ロールベニヤの製造を行わせる目的で、本件ノウハウを被告青山に提供した行為は、不法行為にも当たるところ、これらの被告は、被告会社の業務の執行として、本件ノウハウを被告青山に提供したものである。

(二)  一方、被告青山は、本件ノウハウが原告の営業秘密であり、また、被告池田、被告村井、被告安井らが原告の従業員として知り得た秘密であることを知りながら、ロールベニヤの製造を行う目的で、同人らから本件ノウハウの提供を受けて、ロールベニヤの製造販売を行っている。

(三)  したがって、被告らは、不法行為による損害賠償として、被告青山において本件ノウハウを利用してロールベニヤを製造販売したことによって原告が被った損害を賠償する責任がある。

8  被告青山が、ロールベニヤを製造し、それが、平成元年六月ころから、被告会社によって販売されたことにより、原告は、次の損害を被った。

(一) 販売数量の減少による利益の減少

被告青山のロールベニヤの製造能力は、一箇月に七〇〇〇平方メートルであるところ、加工歩留は九〇パーセントであるから、被告会社は、平成元年七月一日から平成六年三月三一日までの間に、一箇月につき、右七〇〇〇平方メートルの九〇パーセントに当たる六三〇〇平方メートルを販売した。

原告と被告会社とは販売先が競合するので、右の期間における被告会社の販売数量が、右の期間における原告の販売数量が減少した量となる。

しかるところ、平成元年度(平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの期間をいう。以下同じ。)の原告のロールベニヤの販売単価は、一平方メートル当たり一五八八円、平成元年度の原告のロールベニヤの限界利益率(売上高から売上高に比例して発生する費用を除いた限界利益を売上高で割って得られた率)は、五二・五三パーセントであるから、これらを、右の減少した販売数量に乗ずると、原告において、一箇月当たり五二五万五三一一円の利益が減少したこととなる。

原告は、右の利益の減少により、平成元年七月一日から平成二年三月三一日までの間に、合計四七二九万七七九九円の損害を被った。また、原告は、平成二年四月一日から平成六年三月三一日までの間に、合計二億五二二五万四九四〇円の損害を被った。

(二) 限界利益率の低下による利益の減少

被告会社によってロールベニヤが原告と競合する販売先に販売されたことにより、原告は、ロールベニヤの販売単価を下げざるを得なくなるなどの影響を受け、そのため、原告では、平成二年度以降、ロールベニヤの限界利益率が低下した。

もっとも、原告では、平成二年度以降、G・H・I(原告のシンガポールにある子会社)からロールベニヤの半製品を輸入しており、同年度以降のロールベニヤの販売量の約三〇パーセントが輸入した半製品によるものであるところ、同年度以降の限界利益率の低下については、被告会社によるロールベニヤの販売とともに、右のG・H・Iからの半製品の輸入も、一因となっている。

そこで、平成元年度のロールベニヤの販売量の約三〇パーセントがG・H・Iから輸入した半製品によるものであったと仮定した場合の同年度の原告のロールベニヤの限界利益率を算出すると、右の仮定の限界利益率は、四五・一七パーセントとなるから、平成二年度から平成四年度までの間における被告会社によるロールベニヤの販売を原因とする限界利益率の低下によって原告が被った損害の額は、右の期間におけるロールベニヤの販売によって得られた実際の限界利益の額と限界利益率が四五・一七パーセントであると仮定した場合の限界利益の額との差額ということになる。

しかるところ、原告のロールベニヤの売上高は、平成二年度は、一三億四八五六万円、平成三年度は、一四億四六八七万七〇〇〇円、平成四年度は、一一億四九五六万五〇〇〇円であり、原告のロールベニヤの限界利益率は、平成二年度は、四三・九七パーセント、平成三年度は、三八・九パーセント、平成四年度は、三九・五五パーセントであるから、これらの年度において、ロールベニヤの販売によって得られた実際の限界利益の額と限界利益率が四五・一七パーセントであったと仮定した場合の限界利益の額との差額は、平成二年度が、一六一八万二〇〇〇円、平成三年度が、九〇七一万九〇〇〇円、平成四年度が、六四六〇万六〇〇〇円となる。

さらに、平成五年度における原告のロールベニヤの売上高は、一一億一九四六万六〇〇〇円であり、原告のロールベニヤの限界利益率は、四四・〇一パーセントであるが、同年度は、仕入れの改善を原因として、限界利益率が五パーセント上がった。そこで、平成元年度のロールベニヤの販売量の約三〇パーセントがG・H・Iから輸入した半製品によるものであったと仮定し、かつ、右仕入れの改善があったものと仮定して、同年度の原告のロールベニヤの限界利益率を算出すると、右の仮定の限界利益率は、四八・六七パーセントとなるから、平成五年度における被告会社によるロールベニヤの販売を原因とする限界利益率の低下によって原告が被った損害の額は、同年度におけるロールベニヤの販売によって得られた実際の限界利益の額と限界利益率が四八・六七パーセントであったと仮定した場合の限界利益の額との差額ということになる。その額は、五二一六万七〇〇〇円である。

以上の平成二年度から平成五年度までの間における限界利益率の低下による利益の減少額の合計は、二億二三六七万四〇〇〇円となる。

(三) 右(一)、(二)の合計 五億二三二二万六七三九円

9  よって、原告は、被告英二、被告池田、被告村井及び被告安井に対しては、主位的に債務不履行による損害賠償、予備的に不法行為による損害賠償として、被告会社及び被告青山に対しては、不法行為による損害賠償として、各自右8の損害のうち二億円及び内一一六四万四〇〇〇円に対する本件の訴状送達の日の翌日であり不法行為による結果発生後である別紙遅延損害金起算日目録記載の日から、内一億八八三五万6000円に対する本件の訴えの変更申立書送達の日の翌日であり不法行為による結果発生後である平成六年一一月二三日から、それぞれ支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をすることを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  第1項の事実は認める。

2  第2項の事実のうち、原告がロールベニヤの製造方法についてノウハウを有するに至り、ファンシープロダクツにおいてそのノウハウを使用してロールベニヤを製造していることは否認し、その余は知らない。

3  第3項の事実は知らない。

4  第4項の事実は否認する。

5  第5項の主張は争う。

6  第6項の事実のうち、原告の就業規則に、従業員は業務上の秘密を漏らしてはならない旨の規定があることは認め、その余は否認する。

7  第7項の事実は否認する。

8  第8項の事実のうち、被告青山が、ロールベニヤを製造し、それが、平成元年六月ころから、被告会社によって販売されていることは認め、その余は否認する。

9  第9項は争う。

三  被告らの主張

1  原告がノウハウであると主張するロールベニヤの製造方法は、一般に販売されている機械を購入して、その機械を所定の手順に従って作動させることにより、容易に実施することができるものであるから、ノウハウとして、法律の保護に値いするものではない。

殊に、フィンガージョイント工程におけるブックマッチ方式のジョイント及び電球の光線透過を利用した突合せ部分の検査方法は、原告が実施する以前から公知であったし、フリースを、縦横の引っ張り強度の均質性やファイバーノットの有無を考慮して選定することは、当然のことである。

2  被告青山が使用しているロールベニヤの製造方法は、フィンガージョイント工程、ラミネート工程及びサンディング工程からなるが、次のとおり、原告がノウハウであると主張するロールベニヤの製造方法とは異なっている。

(一) フィンガージョイント工程

<1> 不織布テープを使用していない。リンテック株式会社のガムテープを使用している。

<2> テープを貼る際のプレスの圧力の調整は、次のようにしている。

エアー圧 一平方センチメートル当たり四ないし六キログラム

熱板の温度 一五〇度ないし一八〇度

圧力タイム 一・五秒ないし四秒

材種に限らず、材質等により調整する。

(二) ラミネート工程

<1> 接着剤を配合する際には、固定分五〇パーセント、水五〇パーセントの配合とし、硬化剤を若干量混ぜる。

<2> 接着剤の塗布量は一平方メートル当たり八〇ないし一〇〇グラムとしている。

<3> 加圧接合処理の方法

ア 熱ローラーの温度は、一五〇ないし一七〇度

イ 加圧接合処理の速さは、毎分一三ないし一八メートル

<4> 加圧接合処理時における不良品発生防止の方法

フリースの送出装置にブレーキが付いているので、不良品の発生を防止することができる。

(三) サンディング工程

<1> サンドペーパーは、六〇番、八〇番、一五〇番、二四〇番又は三二〇番を使用し、三連にセットする。

<2> サンディングマシンの速さは、毎分一七ないし二〇メートル

<3> サンディングマシンの送出装置にブレーキが付いているので、不良品の発生を防止することができる。

3  損害について

(一) 販売数量の減少による利益の減少について

<1> 平成元年七月一日から平成二年三月三一日までの間における原告の毎月のロールベニヤの販売数量を、平成元年六月一箇月間の販売数量と比較すると、同年七月、同年一二月、平成二年一月を除き、販売数量が多くなっている。

原告のロールベニヤの平成二年度以降の年度ごとの販売数量は、平成二年度及び平成三年度が、平成元年度の販売数量よりも多く、平成四年度及び平成五年度は、平成元年度の販売数量とほぼ同じである。

したがって、原告が損害を被っていると主張している期間における原告のロールベニヤの販売数量は、減少するどころか増加している。

<2> また、被告会社は、ロールベニヤを、原告とは異なる販売先に販売しているから、被告会社の販売数量と原告の販売数量の減少量が一致することはない。

<3> さらに、原告が主張するとおり、原告は、平成二年度以降、G・H・Iからロールベニヤの半製品を輸入しており、そのために、同年度以降の限界利益率に影響が生じているのであるから、販売数量の減少による利益の減少額を算定するに当たっては、平成元年度の原告のロールベニヤの実際の限界利益率を用いるのではなく、平成元年度のロールベニヤの販売量の約三〇パーセントがG・H・Iから輸入した半製品によるものであったと仮定した場合の同年度の原告のロールベニヤの限界利益率を用いるべきである。

(二) 限界利益率の低下による利益の減少について

<1> 原告は、限界利益率が低下した理由として、ロールベニヤの販売単価の低下をあげているが、原告のロールベニヤの平成二年度以降の各年度における年度ごとの販売単価の平均値は、平成元年度の平均値に比べて上昇している。

<2> 原告と被告会社以外にも同種のロールベニヤを販売している会社があるから、原告のロールベニヤの限界利益率が低下した原因は被告会社によるロールベニヤの販売にあると直ちにいうことはできない。また、平成二年度以降原告のロールベニヤの限界利益率が低下したことについては、変動費(材料費及び変動経費)の上昇等の別の要因がある。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一  当事者

請求の原因第1項の事実は、当事者間に争いがない。

第二  原告の有するノウハウについて

一  証拠(甲一〇の一ないし一四、甲一一、甲一五の一ないし一七、甲一七の一、二、甲一八、甲一九の一、二、甲二〇の一ないし一五、甲二一ないし二三、二六、二七、三二ないし三四、甲三五の一、二、甲三六ないし三八、四〇、四五、四九、五〇、甲五三の一、甲五三の二の一、二、甲五四ないし五七、甲五八の一、二、甲五九の一、二、甲六二ないし八〇、甲八二の一、二、甲八六の一、二、甲九九、甲一〇〇の一ないし三、甲一〇一の一、二、乙一四、二一、証人赤松英誉、原告代表者(第一回)、被告池田、被告安井、被告英二、平成三年九月三〇日に行われた検証)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  ファンシープロダクツは、原告の子会社であり、実質的には原告の一製造部門である。そして、ファンシープロダクツにおけるロールベニヤの製造方法は、次の各工程からなる。

(一) フィンガージョイント工程

天然木を厚さ〇・三ないし〇・五ミリメートル程度、幅八五ミリメートル以上に加工したツキ板の両端に多数並列の三角歯形のフィンガー加工を施し、その各加工部を、次々に噛合い状に突き合せて、ツキ板を長尺とし、各突合せ部表面に、不織布テープを接着剤によって貼って補強する。

この工程には、フィンガージョイントマシンと言われる機械を用いる。ファンシープロダクツにおいて使用しているフィンガージョイントマシンは、フーザー社が製造しクーパー社が販売しているものである。

(二) ラミネート工程

右(一)の工程によって得られた長尺状のツキ板の裏面に、接着剤を塗布し、その接着剤に不織布などの裏貼り繊維質シート(フリース)を重ね、加圧接合処理した後、渦状に巻き取る。

この工程には、ラミネートマシンと言われる機械を用いる。ファンシープロダクツにおいて使用しているラミネートマシンは、デュスポール社製である。

(三) サンディング工程

長尺状のツキ板を右(二)のとおり巻き取る前又は巻き取った後に、表面をサンダーによって平滑に研削して、厚さを調整するとともに、右(一)の補強に用いた不織布テープを除去する。

この工程には、サンディングマシンと言われる機械を用いる。ファンシープロダクツにおいて使用しているサンディングマシンは、クールマイヤー社製である。

2  ファンシープロダクツにおいて右のような方法でロールベニヤを製造するに至るまでには、次のような経緯があった。

(一) 原告は、ファンシープロダクツに天井板を製造し、それを販売していたが、収益が低いため、天井板に代わる新たな商品を手掛けることとし、昭和五六年ころから、そのための調査研究を行った。そして、原告では、ロールベニヤをファンシープロダクツにおいて製造し、これを販売することを考え、調査研究を行った。

(二) 原告では、昭和五六年九月に、デュスポール社製のラミネートマシンを発注し、昭和五七年四月には、原告代表者らが、ドイツへ行き、デュスポール社において、ラミネートマシンによってフリースを貼る試験をするなどしたが、フリースに接着剤を含浸させる技術が難しいことが判明した。そして、同年一〇月一五日、右ラミネートマシンがファンシープロダクツの工場に納入されたが、すぐに故障したため、原告代表者は、同月二六日、ドイツのデュスポール社へ行き、右ラミネートマシンの操作方法等について質問した。しかし、その後も、右ラミネートマシンを十分に使いこなすことはできなかった。特にフリースに接着剤を含浸させる技術が問題であった。

その後、かねてから注文してあったクールマイヤー社製のサンディングマシン及びフーザー社が製造しクーパー社が販売しているフィンガージョイントマシンもファンシープロダクツの工場に納入されたが、それらの機械を十分に使いこなすこともできなかった。特にフィンガージョイントの方法が問題であった。

右のような事情で、販売可能なロールベニヤ製品は容易にできなかった。

(三) 昭和五八年五月三日から二〇日にかけて、原告代表者、被告池田らが、ドイツへ行き、同月一五日までの間に、デュスポール社、クーパー社等において、機械の操作方法等について質問するなどしたが、依然として、それらの機械を使用して販売可能な製品を製造する見通しが立たなかった。

そこで、原告は、ハイツ社から、ロールベニヤ製造に関する技術を導入することとし、同月一六日、ハイツ社との間で契約の大枠について合意した上、細部を詰める作業に着手した。そして、同年一二月一日、原告とハイツ社との間で、次のような内容の契約が締結された。また、そのころ、原告代表者、被告池田らは、ハイツ社の工場を見学した。

<1> ハイツ社は、原告に対し、ロールベニヤ製造に関する「情報」を開示し、原告がそれを使用することを認める。

<2> ハイツ社は、原告の技術要員の訓練をハイツ社の工場において行うほか、原告に対して、資料の提供及び質問に対する回答を行う。

<3> 原告は、ハイツ社が開示した「情報」で、明示的に秘密である旨表示されたものについては、第三者に開示しない。

<4> 原告は、ハイツ社に対し、対価として、六万ドイツマルクを支払う。

(四) ファンシープロダクツでは、昭和五八年五月以降、ロールベニヤを試作したが、十分な品質を有する満足な製品を製造することはできなかった。特にフィンガージョイント部分に問題があった。

そこで、原告代表者は、昭和五九年一月七日、ロールベニヤの製造等を軌道に乗せてファンシープロダクツを立て直すためのプロジェクトチームの結成を命じ、プロジェクトチームが結成されて、被告安井がそのリーダーになった。

一方、同月一〇日、被告池田らが、ドイツへ行き、同月二一日まで、ハイツ社の工場において実習した。被告池田は、ハイツ社の工場の模様をビデオテープに収録して、それを日本へ帰ってから、ファンシープロダクツの従業員に見せるなどした。

(五) その後、ハイツ社から得た技術情報を参考にするなどして、ファンシープロダクツにおいて、ロールベニヤの製造を行い、試作改良を重ねた結果、昭和五九年三月ころには、次の3、4で述べるようなロールベニヤの製造に関する技術がほぼ確立し、満足できる製品の製造が可能になった。そして、ファンシープロダクツでは、その後もロールベニヤについて試作改良を重ねた。

(六) 昭和五九年一一月二〇日限りで、ファンシープロダクツは、天井板の生産を中止し、昭和六〇年には、従来の工場の一部を取り壊して、新工場を建て、今日に至るまでロールベニヤを製造している。

なお、右プロジェクトチームは、昭和六一年一月、初期の目的を達し解散した。

原告においては、ハイツ社等への各出張につき報告書を提出させ、また、プロジェクトチームの会議については会議録を作成し、保存している。

3  ファンシープロダクツにおけるロールベニヤの製造方法には、次のような特徴的な点がある。

(一) フィンガージョイント工程

<1> 補強に用いる不織布テープをツキ板の表面に貼ること

ハイツ社では、補強に用いる不織布テープをツキ板の裏面に貼っていたが、裏面に貼ると、ラミネート工程において、接着剤が突合せ部に十分塗布されないので、剥離の原因となる上、サンダーをかけたときに、突合せ部の厚さが薄くなるため、品質が悪くなる。そこで、補強に用いる不織布テープをツキ板の表面に貼り、後にサンディングする際に、それを除去することとした。

<2> 補強に用いる不織布テープを貼る際のプレスの圧力の調整を次のようにすること

エアー圧 一平方センチメートル当たり三ないし六キログラム

熱板の温度 約二二〇度

圧力タイム 一ないし二秒

樹木別の接着強度に配慮する(接着性の良い樹木としては、ナラ、タモがあり、接着性の悪い樹木としては、シナ、チークがある。)。

<3> ブックマッチ方式のジョイント

各突合せ部における木目を揃えるため、三角歯形に加工したツキ板の下部と下部、上部と上部を各突合せ部で合わせて、噛み合わせる。これをブックマッチ方式のジョイントと言う。これを本件のような長尺状のロールベニヤに用いることは、従来からハイツ社において行われていたが、日本で、ブックマッチ方式のジョイントを本件のような長尺状のロールベニヤに用いたのは、原告が初めてである。

<4> 電球の光線透過を利用した突合せ部分の検査方法

ロールベニヤの突合せ部分の検査を電球の光線透過を利用して行う方法は、従来はなかった。

(二) ラミネート工程

<1> 接着剤の選定方法

原告は、国内外の接着剤メーカーとの打合せ、試験等を繰り返して検討した結果、フリースを貼る際の接着剤として、一時期、カネボウ・エヌ・エスシー一四二―二一五〇を使用していた。しかし、その後、よりよい効果が得られる別の会社の接着剤が開発されたので、それを使用している。

なお、原告では、ロールベニヤの裏に接着剤の付いた商品も販売しているが、その接着剤としては、エイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドのエバーグリップ二四〇を使用している。

<2> 接着剤を配合する際に固形分を四〇ないし五〇パーセント配合すること

<3> 接着剤の塗布量は一平方メートル当たり八〇ないし九〇グラムとすること

<4> 加圧接合処理の方法

ア 熱ローラーの温度を約八〇度とすること

イ 加圧接合処理の速さを毎分一七メートルとすること

<5> 予めフリースに接着剤を含浸させることなく、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼ること

ハイツ社では、予めフリースに接着剤を含浸させる方法をとっているが、原告は、予めフリースに接着剤を含浸させることなく、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼る方法をとっており、そのことによって、工程が短くなるため、生産性の向上に寄与している。

(三) サンディング工程

<1> サンドペーパーの種類としては、三〇番、一〇〇番、一二〇番、一八〇番又は二四〇番を使用すること

<2> サンディングマシンの速さを毎分約一三メートルとすること

<3> 蛍光燈光線透過による検査

サンディング後の検査を、蛍光燈光線透過によって行う方法は、従来はなかった。

4  ファンシープロダクツにおいて良質のロールベニヤの製造ができるまでには、右3の各点のほかに、次のような点について調査検討をし、工夫を重ねた。

(一) フィンガージョイント工程

<1> フィンガージョイントマシンの送りスピードを適正な早さに調節する方法

<2> 突合せ部分が有すべき最低限度の品質とそれを保持する方法

ア ピンホールの大きさの限度

イ 突合せ部分のずれの限度とその調整方法

ウ ブックマッチ方式によって木目を揃える方法

(二) ラミネート工程

<1> 樹木の種類により接着剤の塗布量を調整する方法

<2> フリースを次の各点を考慮して選定する方法

ア 繊維と化学物質の割合

イ 縦横の引っ張り強度の均質性

ウ ファイバーノットの有無

エ 一平方メートル当たりの重量

オ 接着剤の含浸度合い

<3> 加圧接合処理における熱ローラーの圧力の調整方法

<4> 加圧接合処理時における不良品発生防止の方法

ア ツキ板の蛇行を防止する方法

イ 熱ローラーに接着剤が付着しないようにする方法

ウ ツキ板とフリースの間に異物が混入しないようにする方法

エ フリースのしわが生じないようにする方法

(三) サンディング工程

<1> サンドペーパーによる研削量の調整

<2> 厚さ〇・五ミリメートルの長尺状のツキ板をサンディングマシンに連続的に投入する方法

<3> 最終仕上面の粗度等についての最低限度の品質とそれを保持する方法

二1  右一認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、ロールベニヤの製造方法について調査研究をし、ハイツ社から技術を導入するなどした上、子会社であるファンシープロダクツに、ロールベニヤの試作改良を行わせ、その結果、右一1認定の各社の機械を使用し、右一3、4認定の技術を用いて、ロールベニヤを製造する方法(以下「本件製造方法」という。)に関する情報を取得したものと認められるから、原告は、本件製造方法に関する情報を保有しているということができる。

2  ところで、被告英二は、原告の取締役であったから、原告との委任契約に付随する信義則上の義務として、退任後においても、その在任中に知った原告の営業上の秘密を他に漏洩してはならないという義務を負っているというべきである。

また、証拠(甲一三の一、二、甲一四の一ないし三、原告代表者(第一回))と弁論の全趣旨によると、被告村井及び被告安井は、原告との間で雇用契約を締結するに当たり、原告の秘密を退職後も他に漏洩しない旨約したことが認められ、原告の就業規則に、従業員は、業務上の機密を漏らしてはならない旨の条項があることは、当事者間に争いがない。したがって、被告池田、被告村井及び被告安井は、雇用契約により、退職後においても、在職中に知った原告の営業上の秘密を他に漏洩してはならないという義務を負っているというべきである。

さらに、会社の取締役や従業員であった者が、その会社の営業上の秘密を他に漏洩することが不法行為になることもあるというべきであるし、第三者が、会社の役員や従業員であった者から、その者が契約に違反し又は違法に営業秘密を漏洩していることを知りながら、営業上の秘密を取得して、それを使用する行為が不法行為になることもあるというべきである。

3  そこで、本件製造方法に関する情報が、右2の「営業上の秘密」に当たるかどうかについて判断する。

(一) 本件製造方法に関する情報が、事業活動に有用な情報であることは明らかである。

(二) 次に、証拠(乙二七の一、二)によると、ロールベニヤの製造において、予めフリースに接着剤を含浸させることなく、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼る方法は、ドイツで一九八三年に発行された刊行物に掲載されていることが認められるから、本件製造方法中のツキ板に接着剤を塗布しその上にフリースを貼る方法については、被告青山がロールベニヤの製造を始めた平成元年には、既に公然と知られていたものであるということができる。

しかし、ツキ板に接着剤を塗布しその上にフリースを貼る方法以外には、本件製造方法に関する情報が、被告青山においてロールベニヤの製造を始めた平成元年に、公然と知られていたことを認めるに足りる証拠はない。また、ツキ板に接着剤を塗布しその上にフリースを貼る方法も、ドイツは別として、我が国において一般的に知られていたとすべき証拠はない。

被告らは、本件製造方法は、一般に販売されている機械を購入して、その機械を所定の手順に従って作動させることにより、容易に実施することができる旨主張するが、証拠(乙六ないし八の各一、二、乙一六ないし一九、証人上田雄久)によると、右一1認定の各社の機械のカタログやこれらの機械に添付されている使用説明書に、右一3、4認定の技術まで記載されているものではないこと、右一2認定のとおり、原告が、本件製造方法に関する技術を取得するまでには長時間を要したことからすると、被告らの右主張は採用できない。

また、証拠(乙一三、証人上田雄久、被告青山)によると、ブックマッチ方式は、家具の製造において、以前から用いられていたこと、光線透過による検査は、薄手のものを検査するときには、以前から用いられていたことが認められるが、そうであるからといって、直ちに、ロールベニヤの製造においてブックマッチ方式のジョイントを行うことや光線透過によって検査することが、既に公然と知られていたものであるとまで認めることはできない。さらに、フリースを、縦横の引っ張り強度の均質性やファイバーノットの有無を考慮して選定することは、当然のことであるとしても、そのことが分かっているからといって、それらを選定に際して具体的にどのように考慮するかということまで分かるものではないから、フリースの選定方法が、既に公然と知られていたものであると認めることもできない。

(三) そして、原告は、右一2認定のとおり、長い時間と多くの費用をかけ、また、失敗の危険を負担しながら、本件製造方法に関する情報を取得したものであり、そのことを原告の取締役及び従業員は十分認識していたものと認められる(原告代表者(第一回)と弁論の全趣旨による。)。また、証拠(原告代表者(第一回))によると、原告では、ロールベニヤの製造工場を、部外者に見せないようにするなどの配慮をしていたことが認められる。

(四) 以上述べたところを総合すると、本件製造方法に関する情報は、機械の選択をも含め、原告におけるロールベニヤ製造に関する体系的な情報であり、その重要部分が他に漏洩されるならば、競業者が容易に同種製品を製造販売することが可能となり、あるいは、競業者がそれを資材としてより優れた競合製品を製造販売することが可能となる性質のものといえる。しかも、平成元年には、日本国内においては、原告以外に天然木を利用したロールベニヤの製造販売をしていた業者はなかったのであるから(原告代表者(第一、第二回))、本件製造方法に関する情報は、原告にとって、極めて重要な営業上の秘密であったというべきである。

したがって、それを他に漏らすことは、右2のとおり債務不履行又は不法行為となり得るというべきである。

第三  被告らの行為について

一  被告青山が、ロールベニヤを製造し、それが、平成元年六月ころから、被告会社によって販売されていることは、当事者間に争いがない。この争いがない事実に、証拠(甲一、甲七の一、二、甲一二、二八、三〇、三一、四六、甲九五の一ないし三、甲九六の一、二、甲一一四、乙一二ないし一五、二四、二八、乙二九の一ないし三、証人上田雄久、原告代表者(第一回)、被告池田、被告英二、被告青山、平成元年一〇月一二日に行われた検証)と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告青山は、平成元年五月ころから、ロールベニヤを製造し、それが、平成元年六月ころから、被告会社によって販売されている。

被告青山におけるロールベニヤの製造方法も、原告と同様に、フィンガージョイント工程、ラミネート工程、サンディング工程の三工程からなる。フィンガージョイントマシンは、フーザー社が製造しクーパー社が販売しているもの、ラミネートマシンは、デュスポール社が製造しているもの、サンディングマシンは、クールマイヤー社が製造しているものであり、原告と同一である。

2  被告青山におけるロールベニヤの製造方法のうち、次の点はファンシープロダクツにおける製造方法と共通している。

(一) フィンガージョイント工程

<1> 補強に用いるテープをツキ板の表面に貼ること(ただし、被告青山では、不織布テープではなく、紙テープを用いている。)

<2> ブックマッチ方式のジョイント

<3> 光線透過を利用した突合せ部分の検査方法(ただし、被告青山では、電球ではなく、蛍光燈を用いている。)

(二) ラミネート工程

<1> フリースを貼る際の接着剤として、カネボウ・エヌ・エスシー一四二―二一五〇を使用していること

被告会社で販売しているロールベニヤの裏に接着剤の付いた商品の接着剤としては、エイ・シー・アイ・ジャパンリミテッドのエバーグリップ二四〇を使用していること

<2> 予めフリースに接着剤を含浸させることなく、ツキ板に接着剤を塗布し、その上にフリースを貼ること

(三) サンディング工程

光線透過による検査

3  青山におけるその他のロールベニヤの製造方法は、次のとおりである。なお、使用しているフリースは、原告で使用しているものとは異なる。

(一) フィンガージョイント工程

テープを貼る際のプレスの圧力の調整を次のようにしている。

エアー圧 一平方センチメートル当たり四ないし六キログラム

熱板の温度 一五〇度ないし一八〇度

圧力タイム 一・五秒ないし四秒

材種に限らず、材質等により調整する。

(二) ラミネート工程

<1> 接着剤を配合する際には、固形分五〇パーセント、水五〇パーセントの配合とし、硬化剤を若干量混ぜる。

<2> 接着剤の塗布量は一平方メートル当たり八〇ないし一〇〇グラムとしている。

<3> 加圧接合処理の方法

ア 熱ローラーの温度は、一五〇ないし一七〇度

イ 加圧接合処理の速さは、毎分一三ないし一八メートル

(三) サンディング工程

<1>サンドペーパーは、六〇番、八〇番、一五〇番、二四〇番又は三二〇番を使用し、三連にセットする。

<2> サンディングマシンの速さは、毎分一七ないし二〇メートル

4  被告青山が、ロールベニヤの製造を開始するに至る経緯は、次のとおりである。

(一) 被告青山は、婚礼家具の製造をしていたが、婚礼家具の売行きが悪くなり、採算がとれなくなってきたので、新たな商品を製造することを検討していたところ、昭和六三年七月ころ、被告青山と被告英二らとの会談によって、被告青山がロールベニヤを製造し、被告会社で販売することとなった。

(二) 被告青山の従業員である上田雄久(以下「上田」という。)は、昭和六三年九月一五日、ナガヤ機械という名称で木工機械の販売業を営んでいた長屋義彦(以下「長屋」という。)及び被告安井とともに、アメリカへ行き、被告会社の従業員である大林太一(以下「大林」という。)の紹介で、大林及び長屋とともに、コンタクトランバー社の工場を見学し、さらに、被告池田の紹介で、被告池田、長屋及び大林とともに、ウッドテープ社の工場を見学して、同月二二日、帰国した。これらの会社は、ロールベニヤを製造していた会社である。そしてウッドテープ社は、原告と同様にハイツ社と技術提携をし、原告とほぼ同様の機械構成によりウッドテープを製造している会社であって、被告池田は原告の従業員として同社を三回訪問し、社長と面識があった。

(三) 上田は、被告池田から、株式会社友愛社(以下「友愛社」という。)がロールベニヤを製造する中古の機械を持っていることを教えられた。そして、同年一〇月、被告青山、上田、被告池田及び長屋が、友愛社を訪問して、機械の譲渡を申し入れたところ、友愛社から、クールマイヤー社製のサンディングマシンの譲渡を受けることができることになった。また、友愛社の代表取締役山口光義を通じて、フーザー社製のフィンガージョイントマシンを販売しているクーパー社に、右フィンガージョイントマシンを発注した。

その後、被告青山、被告池田及び長屋が、東南産業株式会社を訪問し、中古のデュスポール社製のラミネートマシンを譲り受けることとなった。

右の各機械のうちのサンディングマシン及びフィンガージョイントマシン並びに他の二つの機械については、昭和六三年一二月に、被告会社がセントラルリース株式会社からリースして、右ラミネートマシンとともに、同月、被告青山にリースした。

(四) 平成元年二月に、右の各機械及びその他の必要な機械が揃ったので、被告青山は、ロールベニヤの試作を開始し、平成元年五月には、販売可能な商品ができた。被告青山は、ロールベニヤの販売部門を有しておらず、被告青山が製造したロールベニヤは、被告会社の製品として被告会社が独占して販売するようになった(被告青山の供述中、右認定に反する部分は、信用できない。)。

(五) 原告は、平成元年四月、被告青山に対し、原告のロールベニヤの製造技術を利用してロールベニヤを製造することを中止することを求めた書面を送り、その書面は、同月二〇日、被告青山に到達した。

二  右一認定の事実に基づき被告らの行為について判断する。

1  右一4認定のとおり、被告会社は、被告青山がロールベニヤの製造を開始するに当たり、被告青山の製造したロールベニヤを販売することを約した上、被告会社の従業員が、被告青山の従業員の外国における工場見学先を手配した上、見学に同行したほか、被告青山のために機械の入手を斡旋し、さらに、被告会社においてそれらの機械についてリース会社との間でリース契約を締結した上、被告青山にリースしており、また、被告青山が製造したロールベニヤは被告会社の製品として被告会社によって独占的に販売されている。これらの事実に、被告会社では、昭和六一年末ころ、池内ベニヤ株式会社からフィンガージョイント工程の終了したロールベニヤの半製品を仕入れて、これに、友愛社においてラミネートとサンディングを行って製品を完成させ、それを被告会社において販売することを計画したことがあったこと(甲二、甲三ないし六の各一、二、被告池田、被告英二)、被告青山がロールベニヤの製造を開始した当時、ロールベニヤが収益性の高い将来性のある商品であったこと(証人上田雄久、被告青山)を併せ考えると、被告会社は、ロールベニヤ販売の将来性を見込んで、被告青山のロールベニヤの製造開始に当たり、主導的な役割を果たしたものと推認することができる。そして、被告青山は、右一4(一)認定のとおり家具を製造していたもので、特段ロールベニヤの製造について技術や知識があったとも認められないにもかかわらず、右一4認定のとおり短期間で販売可能なロールベニヤの製造を開始していること(前記第二の一2認定のファンシープロダクツが販売可能なロールベニヤの製造を開始するまでの期間と比較すれば、その期間が極めて短いことは明らかである。)を考慮すると、被告青山のロールベニヤの製造開始に当たり、ロールベニヤの製造方法について知識を有する被告会社の従業員が、本件製造方法の重要部分を開示したものと推認することができる。

なお、証人上田雄久、被告青山、被告安井は、被告青山の従業員である上田の方から被告安井に対し被告青山においてロールベニヤを製造すれば被告会社において販売してくれるかを問い合わせたのが、被告青山と被告会社の接触の切っ掛けである旨供述する。しかしながら、当時、被告青山は、婚礼家具の製造販売に行き詰まり約一億数千万円の債務を負担していたのであり(被告青山)、しかも、右のような事業の転換を図れば、多額の設備投資が必要な上、開発のための時間と労力が必要であり、新事業に失敗する危険性も大きかったのであるから、右の時点で被告青山においてロールベニヤ製造の具体的な計画を立てて主動的な立場から関与するに至ったとは到底考えられない。むしろ、前示の被告青山における製造設備と製造方法の内容、被告青山がロールベニヤを製造するに至った経緯とを総合すれば、被告会社において、被告青山のために原告の製造設備と同じ設備を手配するとともに、原告でのロールベニヤの製造方法を被告青山に伝授し、被告青山において製造した製品は被告会社において独占的に販売するとの合意の下に、アメリカでの工場見学、帰国後の各設備の調達を行い、製造を開始するに至ったものと認められる。

2  ところで、証拠(甲三五の一、甲三六、三七、三八、五二、甲八六の一、二、被告池田)によると、被告池田は、前記第二の一2認定のとおり、ロールベニヤの製造技術修得のための海外出張を行っているほか、出張した際には技術的問題についての報告書を提出しており、また、技術的な問題を検討する会議にも出席するなどしていたから、少なくとも、ロールベニヤの製造方法の基本的な事項については認識していたものと認められる。

また、証拠(甲五二ないし七五、証人赤松英誉、被告安井、原告代表者(第一回))と弁論の全趣旨によると、被告安井は、前記第二の一2(四)認定のプロジェクトチームのリーダーとして、ロールベニヤ部門の打合せ会議に出席し、その進行役を務めていたが、その中では、ロールベニヤ製造に関する技術的な事項が検討されることも多かったこと、被告安井は、そのときに配付された会議資料や会議録を自分用に保管していたことが認められる。したがって、被告安井は、ロールベニヤの製造方法の基本的な事項については十分認識していたものと認められる。

しかし、証拠(被告池田、被告英二)と弁論の全趣旨によると、被告英二は、原告の取締役ではあったが、原告において、ロールベニヤの製造に関する技術的な事項には関与していなかったこと、被告村井は、原告において、ロールベニヤの営業を担当していたものの、ロールベニヤの製造に関する技術の開発には関与していなかったことが認められる。したがって、これらの者については、ロールベニヤの製造方法について、被告青山に教えることができるような知識を有していたものとは認めることはできない。

3  次に本件製造方法は、ロールベニヤの製造に関する情報であるが、その中には、製造過程における基本的な工夫というべきもの(機械の選定・配置、テープをツキ板の表面に貼ること、ブックマッチ方式のジョイント、光線透過による検査、接着剤の選定、ツキ板に接着剤を塗布しその上にフリースを貼ること)と、より細かい工夫というべきもの(右記のもの以外のもの)がある。そして、右2で述べたところからすると、被告池田及び被告安井は、少なくとも、右の基本的な工夫というべきものは認識していたものと推認することができる。

また、右一2認定のとおり、右の基本的な工夫というべきものについては、被告青山における製造方法はファンシープロダクツにおける製造方法と共通している(しかし、前記第二の一3、4認定の事実と右一3認定の事実からすると、右のより細かい工夫というべきものについては、被告青山における製造方法はファンシープロダクツにおける製造方法と必ずしも同一ではない。)。

4  以上述べたところを総合すると、被告青山がロールベニヤの製造を開始するに当たり、被告池田及び被告安井において、それぞれ原告の従業員である間に知得した原告の営業上の秘密(本件製造方法のうち右の基本的な工夫)を被告青山に開示したものと推認することができる(被告池田又は被告安井が、右のより細かい工夫というべきものについてまで開示したと認めるに足りる証拠はない。)。

しかし、被告英二及び被告村井において、被告青山に対し、本件製造方法を開示したことを認めるに足りる証拠はない。

三  次に、被告らの責任について判断する。

1  債務不履行責任について

右二において判示したように、被告池田及び被告安井は、原告の従業員であった間に知得した原告の営業上の秘密を、他に漏洩したものということができるから、前記第二の二2で認定した雇用契約上の義務に違反したことになる。

しかしながら、被告英二については、自己が原告の取締役であった間に知得した原告の秘密を漏洩したものではないから、被告池田及び被告安井をして漏洩させたとしても、その行為は、委任契約上の義務に違反するとすることはできない。

また、被告村井は、営業上の秘密を漏洩したと認めることができないので、雇用契約上の義務違反があったとすることはできない。

2  不法行為責任について

(一) 証拠(被告池田、被告安井、被告英二、被告青山)と弁論の全趣旨によると、被告池田及び被告安井は、被告会社の従業員として、被告青山にロールベニヤを製造させた上、それを被告会社において販売するため、被告青山による外国工場の見学に協力し、また、被告池田において前示の各機械の選定に協力し、被告安井において被告会社からのリースという方法により被告青山が各機械を使用できるように協力したこと、被告池田及び被告安井の右各行為はいずれも被告会社の代表者である被告英二の承諾の下に行われたことが認められる。その点と前示二の事実からすると、前示の被告池田及び被告安井による秘密漏洩についても、右の各行為とともに被告英二も加わり、三人が共謀した上、被告会社においてロールベニヤを販売するためにされたものと推認できる。

また、証拠(甲四の一、二、原告代表者(第一回)、被告英二)と弁論の全趣旨によると、被告英二は、右漏洩当時、本件製造方法の内容は知らなかったとしても、それが原告の営業上の秘密であり、被告池田及び被告安井が原告に対し守秘義務を負っていることを認識していたものと認められる(原告は、被告英二に対し、昭和六一年一二月一五日の時点で被告池田らをして他に本件製造方法に関する情報を漏洩させることが原告に対する不法行為に当たる旨の警告書を送付している(甲四の一、二)。)。

そうすると、被告池田及び被告安井の秘密漏洩行為は原告に対する不法行為に当たるというべきであり、また、被告会社の代表者として従業員に右のような不法行為をさせた被告英二の行為も原告に対する不法行為に当たることになる。

したがって、被告池田、被告安井、被告英二及び被告会社は、いずれも原告に対し不法行為責任を負うことになる。

(二) 次に、証拠(被告青山)と弁論の全趣旨によると、被告青山は、原告がロールベニヤを製造していること、被告池田及び被告安井が原告の従業員であったことを知っていたことが認められ、その点と右二において判示した事実からすると、被告青山は、原告の製品と同種の製品を製造する目的で、原告の従業員であった被告池田、被告安井から、原告の営業上の秘密に当たるロールベニヤの製造方法について開示を受けたものと認められるから、被告青山がその開示された情報を用いてロールベニヤを製造販売する行為は、原告に対する不法行為に当たるというべきである。

(三) 被告村井は、右二4認定のとおり、ロールベニヤの製造方法について、被告青山に開示したものとは認められない。また、被告村井が、右(一)認定の被告英二らの共謀に加わっていたものと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告村井については、原告に対する不法行為があったとすることはできない。

第四  損害について

一  原告は、被告池田及び被告安井による営業秘密の漏洩行為がなければ、被告青山は、ロールベニヤの製造をすることができないとの前提の下に、損害の主張をしている。

そして、第三の二において判示したところによると、被告青山は、被告池田、被告安井による秘密漏洩とそれを前提とした被告会社の協力がなければロールベニヤの本格的製造に着手することはできなかったものと認められる。

したがって、被告ら(被告村井を除く。)は、被告青山が漏洩を受けた情報に基づきロールベニヤを製造し被告会社においてその販売をしたことにより原告が被った損害について賠償すべき義務があるというべきである。

なお、右秘密漏洩が被告青山によるロールベニヤの製造を一定期間早めたに過ぎない場合には、賠償の対象となる損害はその期間中の製造に係るものに限定されるが、本件においては、そのような主張立証はない。

二  そこで、右一で述べたところに基づき、原告の損害について判断する。

1  原告は、被告青山のロールベニヤの製造能力は、一箇月に七〇〇〇平方メートルであるところ、加工歩留は九〇パーセントであるから、被告会社は、平成元年七月一日から平成六年三月三一日までの間に、一箇月につき、右七〇〇〇平方メートルの九〇パーセントに当たる六三〇〇平方メートルを販売した旨主張している。

しかしながら、右主張は、被告青山が製造能力を最大限に発揮して製造した製品を被告会社がすべて販売したことを前提としているが、本件においては、そのような事実を認めるに足りる証拠はなく、また、被告会社の実際の販売量を認定できる証拠もない。したがって、原告の右主張は、その点において失当というほかない。

次に、原告は、原告と被告会社とは販売先が競合するので、被告会社の販売数量が原告の販売数量の減少量となる旨主張する。確かに、原告も被告も名古屋市に本店を置く会社であることや前示のように原告の取締役や従業員であった者が被告会社の取締役や従業員となっていることからすると、その販売先が競合することもあるものと推認することができるが、そうであるからといって、直ちに、すべての販売先が競合するものと認めることができないことはいうまでもない。また、本件においては、販売先が競合する割合を認めるに足りる証拠もない。

そうすると、本件においては、被告会社のロールベニヤの販売量を認定することができず、また、仮にこれを認定できたとしても、被告会社の販売量から直ちにそれが原告の販売数量の減少量であると認定することはできない。

2  次に、原告は、被告会社が原告と競合する販売先にロールベニヤを販売したことにより、ロールベニヤの販売単価を下げざるを得なくなるなどの影響を受け、そのため、原告では、ロールベニヤの限界利益率が低下した旨主張する。そして、原告は、限界利益率の算定に当たり、G・H・Iからのロールベニヤの半製品の輸入と平成五年度における仕入れの改善について考慮しているが、他の要因を考慮せず、被告会社によるロールベニヤ販売開始前の原告における限界利益の額と販売開始後の原告における限界利益の額を比較して、その差額全額が被告会社によってロールベニヤが販売されたことによる損害である旨主張している。

しかしながら、製品の限界利益率は、競合製品の出現に影響されることがあるとしても、それのみで定まるものではなく、景気の動向や当該製品に対する需要の度合い、材料費等の経費の額の変動等の多くの他の要因によって左右されるものであることは明らかである。

そうすると、原告の右主張のように、被告会社による販売開始前の限界利益の額と販売開始後の限界利益の額を比較してその差額全額が被告会社によってロールベニヤが販売されたことによる原告の損害であるということはできない。

そして、本件においては、利益率の変動をもたらす他の要因に関し、それらがどのように利益率に影響を及ぼすかについての十分な証拠はないから、それらを考慮した上で、被告会社によってロールベニヤが販売された結果、原告の限界利益が低下したか否か及びその額がどの程度であったかを認定することはできない。

3  もっとも、証拠(甲一〇三、一〇五、原告代表者(第二回)、被告青山)と弁論の全趣旨によると、被告会社では、平成元年六月から本格的にロールベニヤの販売を開始したこと、その頃は国内において天然木によるロールベニヤの製造販売していたのは原告のみであったこと、六月の原告の販売量は、五万三七八九平方メートルであり、販売量は、以後、増加する見込みであったこと、しかし、同年七月の販売量は四万九二五九平方メートルに減少したこと、そのように販売数量が減少すべき季節的な要因はないこと、被告青山における一箇月の製造可能量は六万平方メートルを超えており、被告会社は、七月に右減少量以上を販売したこと、以上の事実が認められ、これらの事実と、原告と被告会社が共に名古屋市を中心として販売活動を行っていることからして、特に反証のない本件においては、七月における右減少量四五三〇平方メートルは、被告会社によるロールベニヤの販売により生じたものと推認するのが相当である(なお、右証拠と弁論の全趣旨によると、同年一二月、平成二年一月にも減少しているが、年末年始の影響が考えられるから、その減少量をもって被告会社による競合製品の販売によるものと認めることはできない。)。

そうすると、右減少量四五三〇平方メートルと六月の平均単価一五六七円及び限界利益率五二・二八パーセント(いずれも、甲一〇五と弁論の全趣旨による。)とにより算定した三七一万一一〇一円が七月の利益の減少額となる。しかしながら、証拠(甲一〇五)と弁論の全趣旨によると、右額は、原告とファンシープロダクツの双方の利益の減少額と認められるから、原告の利益の減少率としては、その半額と推認するのが相当である。したがって、原告は、被告青山のロールベニヤ製造と被告会社の販売により平成元年七月に一八五万五五五〇円の損害を被ったものと認められる。

第五  総括

以上の次第で、原告の請求は、被告会社、被告青山、被告英二に対し不法行為による損害賠償として各自一八五万五五五〇円とこれに対する不法行為による結果発生後である別紙遅延損害金起算日目録記載の日から支払済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告池田及び被告安井に対し、債務不履行による損害賠償として各自一八五万五五五〇円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな別紙遅延損害金起算日目録記載の日から支払済に至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、被告村井に対する各請求及びその余の被告らに対するその余の各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条一項ただし書、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 裁判官 田澤剛)

(別紙)

遅延損害金起算日目録

被告名 起算日

株式会社オムニツダ 平成元年一〇月二〇日

青山光亮 平成元年一〇月二〇日

津田英二 平成元年一〇月二四日

池田美典 平成元年一〇月二〇日

村井進 平成元年一〇月二一日

安井孝安 平成元年一〇月二一日

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